TWICE「MOONLIGHT SUNRISE」が打ち出したアトランタベースのリバイバル

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TWICEが2023年1月20日にリリースしたシングル「MOONLIGHT SUNRISE」を通じてヒップホップのサブジャンル「アトランタベース/マイアミベース」リバイバルの動きを紹介します。

1980年代:アトランタベースの前身「マイアミベース」

今回取り上げるTWICEの「MOONLIGHT SUNRISE」は、彼女たちにとって2021年10月リリースの「The Feels」に続くキャリア通算2曲目の英語詞シングル。つまりアメリカのマーケットを意識して作られた曲ということになるわけですが、そんな重要な曲で打ち出してきたサウンドが「アトランタベース」です。

TWICE Pre-release english track "MOONLIGHT SUNRISE" M/V

アトランタベースはマイアミベースから派生したヒップホップ/R&Bのサブジャンル。ルーツにあたるマイアミベースは1980年代半ばにフロリダ州マイアミで生まれました。特徴は速いテンポとブンブンうなる重低音。トラックは基本的にローランド社のドラムマシーン「TR-808」(通称「ヤオヤ」)で作られています。

Building the Beat: Inside Legendary Roland TR-808 Tracks

マイアミベースは露骨な下ネタ歌詞の能天気なパーティーミュージックとのイメージが強く、それはマイアミベースのパイオニアであるヒップホップグループ、2 Live Crewによって形成されました。1980年代後半に過激な歌詞で注目を集めた彼らは、作品が法的に猥褻物とみなされた史上初のアーティスト。2 Live CrewのCDを売ったレコード店の店員が逮捕されたこともありました。

現在ではすっかり見慣れたCDやレコードの端に貼ってあるモノクロの「Parental Advisory Explicit Content」と記されたステッカー(未成年者に不適切な表現の歌詞が含まれていることを保護者に勧告する目的で1990年に導入)。2 Live Crewはあの「Parental Advisory」のステッカーを作品に貼られた最初のアーティストとされています。

Who's to Blame for the Parental Advisory Stickers on Albums

こうした経緯からマイアミベースには猥雑なイメージが定着。音楽的に単調で享楽的なところもあってどうしても軽視されがちな傾向にありましたが、現在のさまざまなクラブミュージック/ダンスミュージックに影響を及ぼしたマイアミベースの功績は無視できません。

もっとも、マイアミベースが軽視されがちだったとはいえ2 Live Crewが成功を収めて以降はパーティーミュージックとしてのマイアミベースの需要は非常に高いものがありました。実際、1990年代前半にはたくさんのマイアミベースのヒット曲が生まれています。

Whoot, There It Is (Radio Style)

当時全米チャートの上位に食い込むヒップホップのヒット曲というと大抵はマイアミベースでした。代表的なヒット曲は、95 South「Whoot, There it Is」(1993年)、Tag Team「Whoomp! (There it Is)」(1993年)、69 Boyz「Tootsee Roll」(1994年)、Quad City DJ’s「C’mon N’ Ride it (The Train)」(1996年)など。すべてミリオンヒットを記録しています。

1990年代:アトランタベースの誕生

そんなマイアミベースが大きな転換期を迎えるのが、1996年。アトランタの人気ヒップホップ/R&Bプロデューサー、Jermaine Dupuriが主宰する「So So Def Recordings」からリリースされたマイアミベースのコンピレーション『So So Def Bass All Stars』の登場によって従来のマイアミベースのイメージは刷新されることになります。

特に決め手になったのが、シングルになったGhost Town DJ’sの「My Boo」。全米チャートで最高31位、同R&Bチャートで最高18位にランクインしたヒット曲です。

「My Boo」が画期的だったのは、能天気な下ネタラップのイメージが強かったマイアミベースを甘酸っぱいR&Bのラブソングに仕立てたところ。マイアミベースにR&Bの要素を取り入れてポップ化を図ったのがアトランタベースとするならば、まさにこの「My Boo」がアトランタベースを確立したと言っていいでしょう。

Ghost Town DJ’sのメンバー、Rodney Terryが当時を回想したインタビューによると、やはりマイアミベースの早いビートでR&Bを歌ったことがこの曲のキーポイントだったとのこと。曲のコンセプトは「トップがソフトでボトムがハード」。つまり「甘い歌と早くて激しいビート」。R&B側からマイアミベースにアプローチしたケースは自分たちが初めてだったから、その新鮮さから受け入れられたのだろうと話していました。

この「My Boo」のヒットを受けてコンピレーション『So So Def Bass All Stars』はシリーズ化。1997年には『Vol. 2』、1998年には『Vol. 3』がリリースされました。その『Vol. 3』からはR&BシンガーのINOJが歌ったCyndi Lauperの名曲「Time After Time」(1984年)のカバーが全米チャート最高6位のヒットを記録。これは「Time After Time」をマイアミベース化してカバーしたわけですが、このヒットがベースミュージックのイメージを覆す決定打になりました。

INOJ - Time After Time (Video)

この「Time After Time」のカバーでぐっとくるのが、歌詞を一部変更している点。オリジナルのCyndi Lauper版の二番のサビの直前に「The drum beats out of time」(時代遅れのドラムビート、調子外れのドラムビート)というフレーズがあるのですが、INOJのカバーではそこが「The 808’s on time」と改変されています。

これは「808がビートを刻む」「808のビートに乗せて」みたいなニュアンスになりますが、要はマイアミベース/アトランタベースのシグネチャーであるドラムマシーンTR-808を誇示しているわけです。

2010年代前半:アトランタベース再燃

コンピレーションシリーズの『So So Def Bass All Stars』は「Time After Time」のヒットを生んだ『Vol. 3』で終了してしまいますが、アトランタベースを確立したGhost Town DJ’sの「My Boo」はエポックな曲として脈々と受け継がれていくことになります。

主なものでは、まず2010年にMariah Careyがシングル「H.A.T.E.U.」のリミックスで「My Boo」をサンプリング。このリミックスは「My Boo」を輩出したSo So Def Recordingsの代表、Jermaine Dupriが手掛けていました。そして2013年にはアトランタの人気R&Bシンガー、Ciaraがシングル「Body Party」で「My Boo」の歌メロを引用。こちらはアメリカで200万枚を超える大ヒットを記録。Mariah Careyの「H.A.T.E.U. Remix」同様、リミックスヴァージョンは実質「My Boo」のカバーといえる仕上がりでした。

このあと2016年には「Vine」(2017年にサービス終了した動画共有アプリ)で「Running Man Challenge」なる動画投稿企画が大流行しますが、これがGhost Town DJ’sの「My Boo」を流しながらランニングしているようにステップを踏むダンス動画を撮影して投稿する、というもの。思わぬ展開によって20年前のヒット曲だった「My Boo」が若い世代にも浸透していくことになります。

The Duo Behind the 'Running Man Challenge' Phenomenon

2010年代後半〜現在:洗練化が進むアトランタベース

こうしたビッグネームによる「My Boo」の相次ぐ引用とSNSでのバイラルヒットの影響もあって、2016年ごろからちらほらアトランタベースの楽曲が作られるようになってきます。

興味深いのは、9割以上女性シンガー/女性ラッパーで占められている点。ダーティーなパーティーミュージックだったマイアミベースは、アトランタベースを経てガールポップ/ガールR&Bの鉄板スタイルとして確立されていくことになります。

その代表的な楽曲としては、R&BシンガーのTinasheが2016年にリリースした「Superlove」があります。この曲の冒頭の歌詞には「I’m sophisticated, super classy, Uncle Luke, freak, nasty」(私は洗練されていてとってもおしゃれ。アンクル・ルークはめちゃくちゃスケベ)なるフレーズがありますが、ここの「Uncle Luke」は先ほど触れた2 Live Crewのリーダー、Luther Campbellのこと。ベースミュージックを取り入れるにあたり、マイアミベースのパイオニアにリスペクトを捧げているというわけです。

アトランタベースはガールポップ化すると共にスタイリッシュ化も進行。その代表例として聴いてもらいたいのがオルタナティブR&Bシンガー、Kelelaの「Rewind」(2015年)。この曲では現行の浮遊感のあるアンビエントなR&Bサウンドにアトランタベースを落とし込んでいるのですが、これが実にクールな仕上がりになっています。

Kelela - Rewind (Official Video)

こんな具合に2016年ごろを契機としてアトランタベースの曲がたくさん作られるようになりますが、この動きがピークに達したのが2022年。BeyonceやThe Weekndといったビッグネームをはじめ、ラップデュオのCity Girls、同年のグラミー賞新人賞にノミネートされていたMuni Longらがアトランタベースの楽曲をリリースしています。

Beyoncé - AMERICA HAS A PROBLEM (Official Lyric Video)
The Weeknd - Don't Break My Heart (Official LyricVideo)

そんななかでも強力だったのが、Megan Thee StallionとDua Lipaがタッグを組んだシングル「Sweetest Pie」。いまをときめくふたりの豪華コラボでアトランタベースを打ち出してきたというインパクトはもちろん、楽曲の仕上がりとしても決定的といえるものでした。

Megan Thee Stallion & Dua Lipa - Sweetest Pie [Official Video]

K-POPのアトランタベース事情

こうしたアメリカの状況に対してK-POPのアトランタベースをめぐる状況はどんなことになっていたかというと、やはりこちらもアメリカと同様、アトランタベースを取り入れているのはほとんどが女性グループ/女性シンガーだったりします。

DIA 다이아 ‘우우(WooWoo)’ Official Music Video
STAYC(스테이씨) 'ASAP' MV

そんななかNCTの派生ユニット、NCT Uの「Birthday Party」はアトランタベースをネクストレベルに押し上げるようなサウンドでめちゃくちゃしびれました。これは全米チャートで20位にランクインしたNCTの2021年リリースのアルバム『Universe』の収録曲。2015年に「Bills」をヒットさせたマイアミのラッパー、Lunchmoney Lewisをはじめとして制作陣がマイアミのスタッフで固められています。

NCT U 'Birthday Party' (Official Audio) | Universe - The 3rd Album

このようにK-POPでもアトランタベースに着想を得たクオリティの高い曲が作られていますが、K-POPでアトランタベースのリバイバルに早い段階からリアクションした代表的なアーティストは他でもない、「MOONLIGHT SUNRISE」で本格的にアトランタベースを打ち出したTWICEです。

TWICEは定期的にアトランタベース調の曲を出してきた歴史がありますが、デビューの翌年2016年にはすでにアトランタベースにインスパイアされた曲をリリースしています。これはちょうど「My Boo」のリバイバルのきっかけになった「Running Man Challenge」が流行ったタイミングでした。

その曲こそが、TWICEを一躍日本で有名にした「TT」。泣き顔の顔文字をモチーフにしたTTポーズでおなじみでしょう。「TT」は熱心なTWICEのファン/K-POPのファンでなくとも聴いたことのある方が多いと思いますが、あの曲の構造は実質的にアトランタベース。曲が進行するごとにアトランタベース色が強くなっていきます。

以降のTWICE作品では「Precious Love」(2016年)、「Likey」(2017年)、「Look at Me」(2017年)、「Trick It」(2019年)などからアトランタベースのエッセンスが聴き取れますが、2022年8月にリリースしたミニアルバム『Between 1 & 2』収録の「Basics」では従来よりもぐっとアトランタベースに寄せてきていました。

そんな流れを経て「MOONLIGHT SUNRISE」に至るわけですが、今回TWICEがアメリカのマーケットを視野に入れた英語詞の曲でアトランタベースを打ち出してきたのは、現在アトランタベースにスポットが当たっているなかで自分たちは早くからこのスタイルを取り入れてきたという自負もあるのかもしれなません。こうしたストーリーやバックグラウンドを踏まえて「MOONLIGHT SUNRISE」を聴くと、また味わいが増してくるのではないでしょうか。

TWICE "MOONLIGHT SUNRISE" Choreography Video (Moving Ver.)
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