映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』サウンドトラック全曲解説

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マーベル・シネマティック・ユニバースきっての人気シリーズの完結編『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』の劇中で使われているポップミュージックの背景や選曲意図を解説します(映画の内容に触れています。未見の方はご注意ください)。

映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズについて

Marvel Studios’ Guardians of the Galaxy Vol. 3 | Official Trailer

まずは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの説明を超簡潔に。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は、アメリカンコミックの「マーベル・コミック」を原作としたスーパーヒーロー映画の作品群「マーベル・シネマティック・ユニバース」のなかでも特に人気の高いシリーズです。

監督を務めているのは『ザ・スーサイド・スクワッド』(2021年)でもおなじみのジェームズ・ガン。2014年8月に『Vol. 1』公開後、2017年5月の『Vol. 2』を経て、今回の『Vol. 3』でひとまずの完結を迎えました(2022年11月には特別編として『ホリデー・スペシャル』が配信限定で公開)。

Marvel's Guardians of the Galaxy - Trailer 1 (OFFICIAL)
Guardians of the Galaxy Vol. 2 Teaser Trailer

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズは、クセが強くでワケありな落ちこぼれたちが「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」なるチームを結成して銀河滅亡の危機を阻止するスペースオペラ/宇宙活劇。クリス・プラット演じる主人公のピーター・クイルは1988年、9歳のときに宇宙海賊に拉致されてしまいますが、その後成長して銀河中を飛び回るトレジャーハンターになります。

亡くなった母親の形見のウォークマンを肌身離さず所持しているピーターは、彼女が選曲した主に1970年代のヒット曲が入ったカセットテープをいつも聴いているのですが、この通称「Awesome Mix」に収められている曲がそのまま『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のサウンドトラックになっています。

こうしたスペースオペラで往年のポップスがガンガンに流れるフレッシュさ(BGMとして流れるのではなくピーターがヘッドフォンで聴いている、もしくは宇宙船の船内で流れている設定)、さらにシーンと歌詞をリンクさせた見事な選曲術もあって、映画と共にサウンドトラックも全米アルバムチャート1位にランクインする大ヒットを記録。収録曲がすべて既存の曲で占められたサウンドトラックとして史上初の全米1位を獲得しました。

そんなわけで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズではポップミュージックを多用する演出(それぞれの曲にちゃんと意味をもたせた演出)が大きな特徴であり見どころになってきたわけですが、『Vol. 3』ではそこに大きな変化があります。前2作は亡き母が選曲したミックステープの収録曲がそのまま挿入歌になっていましたが、『Vol. 2』のヴィランであるピーターの実の父エゴにウォークマンをミックステープごと破壊されてしまったのです。

その代わりにピーターは『Vol. 2』の最後に彼の育ての親、ヨンドゥから「Zune」を譲り受けています。「Zune」はマイクロソフトがiPodに対抗して2006年に発売した携帯音楽プレイヤー(2011年に生産中止。日本では未発売)。

Don't Let the Music Stop | Microsoft x Guardians of the Galaxy Vol.3

この「Zune」をピーターが入手したことにより、『Vol. 3』では楽曲が大幅にアップデートされています。前2作では母親が青春時代に愛聴していた曲を収めたミックステープを聴いていたから自ずと1970年代(一部1960年代も含む)のポップスしか流れなかったのですが、今回はMP3プレイヤーということでほとんど時代が関係なくなりました。1970年代の楽曲に加えて1980年代、1990年代、2000年代、2010年代の曲も含まれていて、挿入歌の半分以上を1980年代以降の曲が占めています。

では、劇中の挿入歌17曲を流れる順に紹介していきましょう。

Radiohead / Creep (Acoustic)

ジェームズ・ガン監督は『Vol. 2』公開直後のインタビューで「『Vol. 3』ではZuneが非常に重要な役割を果たすことになる」と話していましたが、まさにその予告通りになりました。オープニングで流れるのはレディオヘッドの大名曲、1993年のヒット曲「Creep」。しかも、より内省的でエモーショナルなアコースティックバージョン。いきなりエモーションがレッドメーターを振り切った状態で始まります。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のオープニングはいつもご機嫌な曲が選ばれていましたが、90年代のオルタナ/グランジ時代のシリアスな曲(しみったれた曲)を冒頭に持ってくることによって今回は過去2作とちょっと違ったトーンで物語が進行していくことを示唆しています。

さらに、この「Creep」をZuneで聴いているのは主人公のピーターではなくガーディアンズの一員で高い知能と戦闘力を持ったアライグマのロケット(声はブラッドリー・クーパー)。彼は違法な遺伝子改造によって現在の能力を備え持つことになったのですが、そんなロケットがレディオヘッドの「Creep」を口ずさみながら聴いているという意外な展開。ジェームズ・ガンが『Vol. 3』ではロケットも音楽に向き合うことになるとインタビューで答えていましたが、これは従来のロケットには見られなかった行動です。

「Creep」のタイトルは「キモい」「陰気でうじうじした人」みたいな意味になりますが、歌詞の大意はこんな内容です。「僕は気持ち悪くて変わり者だから居場所がない。特別になりたい。完璧な肉体と魂が欲しい」。そんな「Creep」を聴きながら黄昏ているロケット。そしてどうやらロケットには哀しい過去があって、『Vol. 3』は彼が実質的な主役としてストーリーが進行していくこともほのめかされます。

Marvel Studios’ Guardians of the Galaxy Vol. 3 | Good to Have Friends

このオープニングでいきなり感情を揺さぶられた、という方も少なくないでしょう。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズはどれも冒頭のつかみが見事ですが、これはMCU史上でもダントツでエモいオープニング。しかも今回のレディオヘッドの「Creep」に至っては、映画のヘビーなテーマと楽曲自体の強さもあって曲の余韻を映画全編ずっと引きずっていくようなところがあります。

それは結局、「Creep」の歌詞がロケットだけでなく負け犬たちの寄せ集めであるガーディアンズ全員にオーバーラップしてくるから。ガーディアンズはみんな「Creep」の歌詞の通り「居場所をなくした変わり者」なのです。

Radiohead - Live at Summer Sonic (August 2016)

日本は「Creep」という曲を最も愛している国のひとつと考えていますが、もしあなたにとって「Creep」が人生の一曲であって、そして『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズを見たことがないのであれば、この『Vol. 3』のオープニングのために『Vol. 1』から順を追って見ていく価値があると思います。これは「Creep」という曲のなんたるかを見事に捉えた、完璧に芯を食った選曲。ジェームズ・ガンも「他のシーンでは代わりに入れる曲がいくつか考えられるが、オープニングに関しては『Creep』のアコースティックバージョン以外思いつかない」とコメントしていました。

このオープニングはいろいろと妄想を掻き立てられるシーンでもあります。ロケットが聴いているZuneはもともとヨンドゥの所有物だったわけですから、彼が「Creep」をお気に入りとして聴いていたと思うと一層ぐっとくるものがあるでしょう(ヨンドゥも子供のころ親に捨てられてアウトローになった過去があります)。

そしてピーターがずっと宇宙船内で音楽を流していたことで影響を受けたのかもしれませんが、ピーター同様ロケットにとっても音楽が生活のなかで欠かせないものになっていることがこのシーンから推測できるでしょう。実際、エンディングにはガーディアンズたちがちょっとした音楽談義を繰り広げる素敵なシーンが挟み込まれます。

Heart / Crazy On You

続いてはハートの「Crazy On You」(1975年)。これは従来の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のイメージを踏襲した選曲。この曲は同じMCUの『キャプテン・マーベル』(2019年)でも使われていましたが、ここでは今回の敵役のひとりであるアダム・ウォーロックの登場シーン、彼がロケットを襲撃するシーンで流れます。

Heart - Crazy On You (1977) • TopPop

この「Crazy On You」は、当時ハートのフロントを務めるアン・ウィルソンがベトナム戦争や犯罪の増加などによるストレスフルな世相に明るい未来を見い出すことができなくなって、彼女の恋人だったバンドメイトのギタリスト、マーク・フィッシャーに慰めを求めようとして作ったという経緯があります。

歌詞にはこんな一節があります。「爆弾や悪魔がひっきりなしにやってくるから息をつける場所もない」「世界が痛みに悲鳴をあげている。みんながまともじゃないこの時代にどうやって生きていけばいいっていうの?」。

こうした危機感を訴えたフレーズが散りばめられた歌詞はまさにアダム・ウォーロックの登場をほのめかしているようでもあり、今回の最凶のヴィランであるハイ・エボリューショナリーの標的になったガーディアンズを取り巻く状況を歌っているとも受け取れるでしょう。

Rainbow / Since You’ve Been Gone

次はレインボーの「Since You’ve Been Gone」(1979年)。この曲は映画のトレーラーにも使われていたことからも今回の劇中で重要な位置付けの曲と言えるでしょう。アダム・ウォーロックの襲撃を受けて瀕死の重傷を負ったロケットを救うため、ガーディアンズが宇宙船ボウイ号(この船名はデヴィッド・ボウイにちなんでいます)に乗り込んでハイ・エボリューショナリーのいるオルゴコープへと飛び立つシーンで流れる曲です。

Rainbow - Since You've Been Gone

レインボーの「Since You’ve Been Gone」はハードロックバンドである彼らが従来の路線からポップ化を図った曲で、ハードロックというよりはほとんどパワーポップ近い魅力を持った曲。この曲を取り上げることについては当時バンド内でも大揉め。ドラムのコージー・パウエル脱退のきっかけになりました。

そういった意味では『Vol. 1』でミラノ号に乗ったガーディアンズが宇宙へと旅立つときにラズベリーズの「Go All The Way」が流れるシーンを彷彿とさせるところもありますが、「Go All The Way」がナンパな曲であるのに対して「Since You’ve Been Gone」は曲調こそポップで軽快ながら歌詞は恋人を失った男の苦悩を歌っています。

歌詞は「君がいなくなってから正気じゃいられない。僕にかけた呪いをといてくれ」みたいなフレーズが延々と続いていきます。これは当然愛するガモーラを失ったピーターの心情を代弁したものだと思いますが、ロケットの回想シーンで登場する彼の旧友カワウソのライラのことを指しているようでもあります。

また、歌い出しの歌詞は「毎晩同じ時間に昔の夢を見る。ベッドから床に落ちて目を覚まして、靴を履きながら頭の中ではあの別れを思い出している」という内容。これは昏睡状態のなかで過去の悲劇に苦しんでいるロケットを連想させます。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が喪失と救済の物語であることを改めて再確認させられるような選曲でしょう。

Spacehog / In the Meantime

Spacehog - In the Meantime (Official Music Video)

次はスペースホッグの「In the Meantime」(1995年)。これは『Vol. 3』の最初のトレーラーで使われていた曲ですが、察しのいい方であれば1990年代の曲がトレーラーで使われていた時点で今回の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の変化を感じ取っていたのではないでしょうか。

劇中ではガーディアンズの面々が色とりどりの宇宙服をまとってオルゴコープに潜入するシーンで流れます。歌詞は「俺たちが似た者同士ならお前のすべてを愛する」という内容。ガーディアンズの絆を歌っているように受け取れると共に、彼らが昏睡状態にあるロケットに寄せる思いとオーバーラップするようなところもあるのではないかと。そういった意味では映画全体を包括するような重要曲と言えるでしょう。最初のトレーラーで使われたのも納得。

Earth, Wind & Fire / Reasons

続いてアース・ウィンド&ファイアの「Reasons」(1975年)。これも従来の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のイメージを踏襲した曲ですが、今回ソウルミュージックの選曲はこの曲のみ。

MCUでは同じアルバム『That’s The Way of The World』収録の「Shining Star」が『ドクター・ストレンジ』で流れるのを覚えている方も多いでしょう。EW&Fはエレクトリック・ライト・オーケストラやデヴィッド・ボウイのように宇宙をモチーフにした作品が多いことからいずれ『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で使われるのではと思っていましたが、今回ようやく実現しました。

Earth, Wind & Fire - Reasons (Official Video)

この曲はオルゴコープ内の戦闘シーンで流れる曲ですが、内容としては「君がほしくてたまらない」と歌うフィリップ・ベイリーのファルセットボーカルが冴え渡るロマンティックなラブソング。ピーターがオルゴコープの受付係のウラをたぶらかすくだりの前後で流れるのでピーターのプレイボーイぶりに合わせた選曲とも受け取れますが、サビの「僕らの理由のすべては偽りなんだ」という歌詞もガーディアンズが作業員を装ってオルゴコープに潜入した状況にうまくはまっています。

The Flaming Lips / Do You Realize??

次はフレーミング・リップスの「Do You Realize??」(2002年)。この曲は2022年7月開催のサンディエゴのコミコン(コミックとその文化に焦点を当てたイベント)で初めて公開した『Vol. 3』のトレーラーで使われていた曲でもあります。

The Flaming Lips - Do You Realize?? (Official Music Video) [HD Remaster]

歌詞はこんな内容です。「気付いているかい? 君の顔が世界一美しいってこと。気付いているかい? 僕らは宇宙を漂っているってこと。気付いているかい? 泣きたくなるような幸せがあるってこと。気付いているかい? 誰でもいつかは死んでしまうってこと。さよならを告げる代わりにみんなに伝えて。人生あっという間に過ぎ去っていくってこと。素晴らしいものをずっと残しておくのは難しいってこと。君は気付いているよね。太陽は沈むのではなく、回り続ける世界が生んだ幻想にすぎないってこと」

そして、この曲についてフレーミング・リップスのウェイン・コインはこんなコメントをしています。「この銀河系で地球が太陽のまわりを回って宇宙を飛んでいることが何を意味するのか、科学的な現実を分析するたびに私は恐怖に襲われます。私たちの存在がいかに不安定なものであるか、改めて思い知らされるからです」

これらの歌詞や発言を踏まえると「Do You Realize??」はまさに宇宙の壮大さと生命/人間の脆弱さについて歌ったような曲で、幻想的な曲調も含めて宇宙空間とのマッチングは見事と言うほかありません。ジェームズ・ガンも今回の挿入歌のなかでも特に重要な曲のひとつに挙げていて、曰く「スペイシーでいてメランコリーな美しさがある」とのこと。最初のトレーラーにも使っているぐらいですから、この曲から彼が得たインスピレーションはかなり大きかったのではないかと思います。

Faith No More / We Care a Lot

Faith No More - We Care a Lot (Official Music Video) [4K]

続いてはフェイス・ノー・モアの「We Care a Lot」(1985年)。いわゆる「意識高い系」をおちょくった曲で、ハイ・エボリューショナリーが理想郷として創造したカウンターアース(もうひとつの地球)にガーディアンズが到着したときに流れる曲。タイトルの「We Care a Lot」は「とても心配だ」みたいな意味になるのでガーディアンズを警戒しているカウンターアースの住人たちの心の声とも受け取れますが、理想郷として作られながらも暴力や分断がはびこるカウンターアースの惨状に重ね合わせたのかもしれません。

EHAMIC / 小犬のカーニバル~小犬のワルツより~

小犬のカーニバル ~小犬のワルツより~

次は今回最も意表を突く選曲。EHAMICの「小犬のカーニバル~小犬のワルツより~」(2018年)。これはNHKで2017年に放送された日本のアニメ『クラシカロイド』の挿入歌。ショパンの「小犬のワルツ」をアレンジした、いわゆるボカロ曲です。

カウンターアースの住人のラジオから流れてくる曲ですが、歌詞には「何かを伝えようとしているはず」「それぞれ事情が色々あるのよ」なんてフレーズがあるので言語が異なるガーディアンズとカウンターアースの住人(コウモリ家族)がなかなか意志の疎通がとれないさまを表しているようにも思えます。いずれにせよ、なぜこの曲に目をつけたのかは気になるところ。

Alice Cooper / I’m Always Chasing Rainbow

続いてはアリス・クーパーの「I’m Always Chasing Rainbow」(1975年)。従来の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』イズムあふれる選曲。待機中のボウイ号の中でガモーラが流している曲です(昏睡中のロケットに聴かせている?)。

これはショパンが書いた「幻想即興曲」がベースになっている曲で、1918年上演のブロードウェイミュージカル『Oh, Look!』のために歌詞がつけられて以降スタンダード化した経緯があります。1941年にはミュージカル映画『美人劇場』で主演のジュディ・ガーランドが歌っていますが、「いつも虹を追って幸せの青い小鳥を見つける日を虚しく待っている。でも俺の夢はことごとく破れてきた。なぜいつもしくじってばかりなのだろう」と歌う歌詞は彼女の名唱で知られる「Over The Rainbow」に酷似しています。

I'm Always Chasing Rainbows

この歌詞はもちろんカワウソのライラたちと自由になることを夢見ていた(そしてそれが無念にも絶たれた)ロケットの心情に寄り添ったものですが、数々のシンガーが歌ってきたスタンダードの「虹を追って」からあえてアリス・クーパーのバージョンを選んできたのは、ロケットたちをロック界の奇人、異形のロッカーである(まさに「Creep」な!)アリス・クーパーと重ね合わせたようにも思えます。

The Mowgli’s / San Francisco

The Mowgli's - San Francisco

次はザ・モーグリスの「San Francisco」(2012年)。この曲が流れるのもカウンターアースのシーン。ガモーラが操縦するボウイ号がピーターとグルートを轢きそうになる場面で流れる曲です。これはおそらくノリの良さで選んだDJ的な選曲だと思いますが、ガモーラとピーターが絡むシーンであることを考えると、歌い出しの歌詞が二人の関係性を歌っているようにとれなくもありません。

「僕はずっと恋に恋している。何かが僕ら二人を結びつけているんだ。愛にはそれだけの強さがある。時が経ってわかったことがいろいろあるんだよ。体系的に作用する薬、ひとつに重なる鼓動。それは集合的に、無意識的に成り立っている」

X / Poor Girl

続いてはXの「Poor Girl」(1983年)。Xは日本のX JapanではなくカリフォルニアのパンクバンドのX。シーンとしてはヨンドゥの側近だったクラグリンや今回からガーディアンズの一員に加わった宇宙犬のコスモらが惑星ノーウェアの住人たちと酒場でポーカーをやっているところで流れてきますが、おそらくこの「Poor Girl」(可哀想な女の子)はコスモのことを指しているのではないかと。

X - Poor Girl (Official Audio)

コスモは1960年代に使い捨ての実験台としてソ連のロケットに乗せられて宇宙に飛ばされて、そのまま宇宙を漂流していたところを拾われてコレクターの保管庫に閉じ込められていた経緯があります。ある意味コスモの出自はロケットにも通ずるところがありますが、それを踏まえると「Poor Girl」の歌詞はコスモの境遇に重なるようにも聞こえます。

「家でじっと座っていた君。黒く塗り込められた窓。ひどいショックを受けた君は、随分の長いこと泣いていた。人生がひっくり返って迷子になって、もう二度と戻ることはない」

The The / This Is the Day

次はザ・ザの「This Is The Day」(1983年)。この曲が流れるのはガーディアンズが仲間のネビュラ、ドラックス、マンティスをハイエボリューショナリーから救出に向かう中、応援を要請されたクラグリンも惑星ノーウェアごと駆けつけてくるシーン。シチュエーション的にはピーターがボウイ号船内で流しているような格好になると思うのですが、これはきっとハイエボリューショナリーとの戦いに向けてガーディアンズの仲間たちを鼓舞するために流したのでは。

The The - This Is the Day (Official 4K Video)

なんといっても何度も繰り返されるサビの「きっと今日こそ人生が変わるはず。今日こそすべてがうまくいくはず」なる歌詞がシーンにぴったりですが、中にはこんな歌詞もあります。

「やろうと思えば君はなんだってできたはずだった。そして、友人たちも家族もみんな君のことを幸運だと思っている。でも君は彼らの知り得ない面がある。それは君が思い出に浸るときの顔。そんなさまざまな思い出が君の人生を糊のように繋ぎ合わせている」。これはロケットの置かれた境遇にばっちりハマります。

Beastie Boys / No Sleep ‘Til Brooklyn

続いては、ビースティ・ボーイズ「No Sleep ‘Til Brooklyn」(1986年)。これは今回のいちばんの見せ場のひとつであるガーディアンズとハイエボリューショナリーの手下たちとのスローモーションでの集団戦闘シーンで流れる曲。この曲ではツアーに明け暮れるビースティのクレイジーな毎日が綴られていますが、でも本拠地のブルックリンにたどり着くまでは休まないでいくぜ、というバンドの決意表明になっています。

基本的にはザ・モーグリスの「San Francisco」のようにノリの良さ重視、アクションシーンとのマッチングを考慮しての選曲だと思いますが、強いて歌詞と関連づけるなら「最後まで徹底的にやってやる!」「最後まで気を抜かないで戦うぜ!」というニュアンスなのでは。

Beastie Boys - No Sleep Till Brooklyn (Official Music Video)

ちなみにMCUの次作、11月10日公開の『マーベルズ』のトレーラーではビースティ・ボーイズの「Intergalactic」が使われています。

Florence + The Machine / Dogs Days Are Over

次はフローレンス&マシーンの「Dogs Days Are Over」(2008年)。実質的にこれが本編でかかる最後の曲。ハイエボリューショナリーとの戦いに勝利をおさめたガーディアンズの面々がノーウェアの住人たちと共に祝賀会を繰り広げているなか、ピーターからZuneをもらったロケットが街中に流す曲ですが、これはオープニングでロケットが聴いていたレディオヘッド「Creep」と対になる解放の歌と言えるでしょう。

Florence + The Machine - Dog Days Are Over (2010 Version) (Official Music Video)

「dog」はネガティブなニュアンスで使われることが多く、例えば「underdog」は「負け組」みたいな意味になりますが、この「dog days are over」は「惨めな日々はもうおしまい」という感じに訳すのがしっくりくると思います。「惨めな日々はもうおしまい。うだつのあがらない時期はもうすぎた。急いで母の元に、父の元に、子供たちの元に、兄弟姉妹の元に走って行こう」

この曲をバックにしてガーディアンズのメンバーそれぞれが別の道を歩むことを決心して別れていくわけですが、オープニングのレディオヘッド「Creep」で「変わり者の僕には居場所がない」と歌われていたのに対して、エンディングでは「Dogs Days Are Over」をBGMにして各々が過去に向き合いつつ自分がありのままでいられる新しい世界を見出して旅立っていく、という非常に美しい流れになっています。

The Replacements / I Will Dear

ここから先はエンドクレジットで流れる曲。まず最初はリプレイスメンツの「I Will Dare」(1984年)。この曲のサビの歌詞は「また会おうよ、どんな場所でも、どこでも、いつでも。もうなんでもいいから今夜会おう。君が思いきってくれたら僕も勇気を出すよ」という内容。ここに歌われている通り、ガーディアンズのメンバーはそれぞれ違う道を歩み始めたがまたいつでも再会できる、ということを示唆しているのだと思います。

Redbone / Come and Get Your Love

Redbone - Come and Get Your Love (Official Music Video)

続いてはレッドボーンの「Come and Get Your Love」(1974年)。ロケットが率いる新生ガーディアンズの戦いぶりを描いたミッドクレジットシーンで流れてきますが、この曲がかかるのは『Vol. 1』のオープニングと『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)に続いて三度目。実質的な『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの主題歌と言って異論はないでしょう。TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の「MCUポップミュージック名場面総選挙」でも堂々の1位に選ばれました。

この曲の「ありのままの君が好きだ。君の外見や考え方も祖先が紡いできたものなんだ。ここに来て愛を手に入れなよ」という歌詞はレッドボーンがネイティブアメリカンとメキシコ系アメリカ人の血を引くメンバーで構成されていることに基づいていますが、『Vol. 1』ではそのメッセージがガーディアンズのメンバーの多様性と擬似家族としてのつながり、それからのちのピーターとガモーラの恋を示唆していました。

歌詞はもちろん、曲調的にも陽気なガーディアンズのノリにぴったりな、まさに『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの主題歌にふさわしい曲でしたが、この『Vol. 3』ではありのままの自分を受け入れていく物語(はみ出し者たちが救済される物語)をまとめる曲としてまた新しい魅力を放っている印象を受けました。ここまで考えた上で『Vol. 1』のオープニングから選曲しているのだとしたら神業でしょう。やはりジェームズ・ガン、おそるべし。

Bruce Springsteen / Badlands

そしていよいよ最後、映画を締めくくるのはブルース・スプリングスティーンの「Badlands」(1978年)。サビの「この荒れ果てた土地で俺たちは生きていかなくちゃいけない。この土地が俺たちにとって良くなるまでは」という歌詞はガーディアンズの戦いがまだ続いていくことを歌っているのでしょう。

また、曲の後半にはこんなフレーズもあります。「俺はお前がくれた愛を信じる。俺を救ってくれる信念を信じる。そして希望を信じて俺は祈る」。これは新たにガーディアンズを率いることになったロケットからピーターへのレスポンスとも受け取れるのではないでしょうか。

Bruce Springsteen - Badlands (Official Lyric Video)

書籍『マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考』

以上、『Vol. 3』で使われているポップミュージック全17曲が劇中でどのように使われているかを紹介してきました。最後に宣伝になりますが、2022年に映画評論家の添野知生さんとMCU映画の音楽について解説した書籍『マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考 映画から聴こえるポップミュージックの意味』(イースト・プレス)を出版しました。こちらではMCUフェーズ3までの全作品を取り上げているので興味のある方はぜひチェックしてみてください。

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