映画『バービー』サウンドトラック解説〜2023年最大のヒット作をめぐる重要曲10選

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アメリカで社会現象級の大ヒットを記録しているグレタ・ガーウィグ監督の映画『バービー』の挿入歌より独断と偏見を交えつつ重要曲10曲を選出、その背景や選曲意図などを解説します(映画の内容に触れています。未見の方はご注意ください)。

サウンドトラック『Barbie The Album』

Barbie | Official Teaser Trailer 2 (2023)

まずは映画の公開に合わせて7月21日にリリースされたサウンドトラック『Barbie The Album』を紹介しておきましょう。映画同様サウンドトラックのセールスも好調で、全米アルバムチャートでは初登場2位にランクインしています。

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サウンドトラックの総合プロデュースを務めているのは、グラミー賞でこれまでに二度最優秀レコード賞を受賞しているスーパープロデューサー、Mark Ronson。そしてマークの右腕的存在で現行シーンきっての売れっ子のひとり、最近では全米1位になったBTSのJung Kookのソロデビューシングル「Seven」を手掛けていたAndrew Watt。このふたりは併せて映画のスコアも担当しています。

Mark Ronson - Uptown Funk (Official Video) ft. Bruno Mars

参加アーティストはいまをときめくビッグネームばかり。Billie Eilishを筆頭に、Lizzo、Dura Lipa、Nicki Minaj、Ice Spice、Haim、PInkPanteress、Charli XCX、Sam Smith、Tame Impala、そしてK-POPのFIFTY FIFTYまで、現行シーンを代表する女性アーティストを軸にした錚々たるラインナップ。しかも、すべてが書き下ろしの新曲という近年稀に見る贅沢さです。

第一弾シングルに選ばれたDua Lipaの「Dance the Night」はアメリカのチャートで最高7位、彼女の本国イギリスでは堂々の1位を獲得。この曲をはじめとして、サウンドトラックからは続々とシングルヒットが生まれています。

Dua Lipa - Dance The Night (From Barbie The Album) [Official Music Video]

『Barbie The Album』はマーク・ロンソンが制作に一年以上の時間を費やしたということもあって、どの曲も単体で楽しめつつも映画のテーマやコンセプトをしっかり踏襲しています。そのへんは収録曲のタイトルを確認するだけでもなんとなく伝わると思うのですが、実際に映画を見ると予想以上に音楽が重要な意味を持つ作品でした(グレタ・ガーウィグも1950年代のミュージカル映画を参照しながら作ったことを明かしています)。では、ここからは楽曲ごとに触れていきましょう。

Lizzo「Pink」

『バービー』において音楽どういう位置づけにあるのか、それは映画が始まってすぐにわかります。そのオープニングで流れる曲が、2023年の第65回グラミー賞で最優秀レコード賞を受賞したLizzoの「Pink」。曲調的には彼女の安定のディスコポップ路線ですが、どこかMadonnaの「Holiday」(1983年)を彷彿とさせるところも。

ちなみにドラムはヒップホップバンド、The RootsのQuestloveが担当。このへんのキャスティングの妙は業界内におけるMark Ronsonの顔の広さと信頼の賜物なのでしょう。

LIZZO - Pink (From Barbie The Album) [Official Audio]

歌詞の内容としてはタイトル通りバービーのイメージカラーのピンク賛歌であり、バービーたちが暮らす理想郷「バービーランド」の国歌とも言える曲です。バービーランドでは毎日この「Pink」と共に一日がスタート。曲の途中で入るタイトルの「P-I-N-K」を使ったアクロスティック(P=Pretty、I=Intelligence、N=Never Sad、K=Kool)が曲の楽しさに拍車をかけています。

ただ、バービーの体に異変が起きて彼女が死について考えるようになると、それを受けて楽しい曲の歌詞が一変。「P-I-N-K」のアクロスティックは、「P」が「Panic」(混乱)、「I」が「I’m scared」(恐怖)、「N」が「nauseous」(吐き気)、そして「K」が「Death」(死。バービーがそれほど死に囚われているということ)、といった具合に一気に不穏な内容になってしまいます。

この不穏な歌詞の「Pink」は公開当初現地のSNSなどでは「Existential Crisis Version」(実存的危機ヴァージョン)と呼ばれていたそうですが、たいへん大きな反響がレーベルにあったようで映画公開から一週間後の7月29日に「Bad Day Version」として各サブスクリプションサービスにて配信がスタートしています。『バービー』のサウンドトラックにおける書き下ろしの新曲の作り込み具合と物語との緊密さは、このLizzoの「Pink」からもよくわかるのではないでしょうか。

LIZZO - Pink (Bad Day) [From Barbie The Album] [Official Audio]

Cyndi Lauper「Girls Just Want to Have Fun」

こちらはサウンドトラック未収録曲。バービーランドでバービーたちが毎夜繰り広げるガールズナイトのテーマソングとして、インストゥルメンタルのバージョンが二回が流れていました。

当時日本では「ハイスクールはダンステリア」の邦題でリリースされた「Girls Just Want to Have Fun」は、1983年に全米チャートで最高2位を記録した大ヒット曲。Cyndi Lauperの実質的なデビュー曲にして出世作であり、1980年代のポップミュージックを代表するヒット曲です。

個人的には人生で初めて出会ったガールアンセムですが、おそらく史上最もよく知られている女性賛歌のひとつなのでは。「女の子たちは思いきり楽しみたいだけ!」という明快なタイトルは、フェミニズムのスローガンとしてもよく使われるている印象があります。

Cyndi Lauper - Girls Just Want To Have Fun (Official Video)

「Girls Just Want to Have Fun」の歌詞は、まず主人公の女性が朝帰りした場面から始まります(「ハイスクールはダンステリア」の邦題に惑わされますが、主人公は学生ではなく大人の女性です)。彼女は母親から「いつになったらあんたはちゃんとするんだい」と説教されるのですが、それを受けて彼女は「ねえママ、自由が制限されている私たち女って不幸だよね。だから女の子だってもっと楽しみたい。私たちは思いきり楽しみたいだけなんだよ」と主張します。

セカンドヴァースにはこんな歌詞もあります。「きれいな女の子を連れている男たちは、彼女を束縛して周りの世界から遠ざける。でも、私はお日様の下を堂々と歩きたい。女の子だってもっと楽しみたい。私たちは思いきり楽しみたいだけなんだよ」。ここには「男と付き合うことで自由を奪われるようなことはまっぴらごめん。いつだって自分の意思で自由に行動したい」というメッセージが託されています。

Cyndi Lauperの曲はもともとカバーや他者からの提供曲が多いのですが、この「Girls Just Want to Have Fun」も同様にフィラデルフィアの男性シンガー、Robert Hazardが自分のバンドのために1979年に作った曲がめぐりめぐって彼女のもとに回ってきたものでした。

そのRobertが書いた原作はタイトルこそ同じ「Girls Just Want to Have Fun」でしたが、歌詞は完全に男性視点。女の子を「お持ち帰り」している遊び人の男が彼の父親に「俺たち男は幸運だよな。だって女の子たちだって楽しもうとしているんだから」と告げるホモソーシャルな内容でした。

Cyndiはこの曲をプロデューサーのRick Chertoffに勧められたのですが、当然「こんな歌は絶対に歌いたくない」と強く抵抗。最終的に歌詞を変えてレコーディングすることを条件に合意しました。

オリジナルの「俺たち男は幸運だよな。だって女の子たちだって楽しもうとしているんだから」という歌詞を、彼女は「私たち女は不幸だよね。だから女の子だってもっと楽しみたいんだから」と改変。女性が本当に望んでいるのは男性と同じ権利を与えられることなのだ、と強く訴えました。

「Girls Just Want to Have Fun」は実質的にカバーソングだった、という事実に驚かれる方も多いと思いますが、こういう経緯から生まれたヒット曲であることがこの曲のガールアンセムとしての強度を高めているといえるでしょう。

この「Girls Just Want to Have Fun」をめぐるエピソードにも象徴的ですが、Cyndiは同時期にデビューしたMadonnaと共に女性の権利向上に非常に意識的でした。「Girls Just Want to Have Fun」の収録アルバム『She’s So Unusual』からはマスターベーションを題材にした「She Bop」のような「攻めた」ヒット曲も生まれています(全米チャート最高3位)。LGBTQコミュニティでスタンダード化している1986年の「True Colors」(全米チャート1位)なども含め、Madonnaの革新性の陰に隠れがちなCyndiのアクティビストとしての側面はもっと評価されて然るべきでしょう。

Charli XCX「Speed Drive」

現実世界(リアルワールド)にやってきたバービーとマテル社の重役たちとのコミカルな追走劇を盛り上げていた、サウンドトラックの収録曲。バービーをゴッホやヴォルテールと並べ、彼らと同じようにバービーはディープでクラシックなんだ、と訴えるストレートなバービー讃歌。イギリスのシングルチャートでは最高9位にランクインしています。

Charli XCX - Speed Drive (From Barbie The Album) [Official Music Video]

サビの「Ah-ah, Barbie, you’re so fine, you’re so fine you blow my mind」のパートはToni Basilの1982年の全米ナンバーワンヒット「Micky」の引用。快活なガールポップの系譜を継いでいます。

Spice Girls「Spice Up Your Life」

サウンドトラック未収録曲。子供たちがバービー人形を粗雑に扱って遊ぶシーン(ケイト・マッキノン演じる「へんてこバービー」誕生の回想シーン)で流れていました。

Spice Girls - Spice Up Your Life (Official Music Video)

Spice Girlsは1996年から2000年の活動期間中に10曲のシングルをリリースして9曲が本国イギリスで1位になっていますが、1997年のセカンドアルバム『Spiceworld』からの第一弾シングル「Spice Up Your Life」もそのうちのひとつ。「悲しくて落ち込んでいるときは私たちがあなたの行くべき場所へ連れて行ってあげる。あなたに必要なのは前向きな気持ち。男の子にも女の子にも、色とりどりの世界。人生にスパイスを」という歌詞をバービーの役割に重ね合わせていたのでしょうか。

ほんの一瞬ながら、『バービー』のような映画でSpice Girlsの楽曲がフィーチャーされたのは非常に興味深いものがあります。彼女たちがポップカルチャーに与えたインパクトは日本人が考える以上に大きく、『バービー』の製作にも携わっている主演のマーゴット・ロビーはSpice Girls登場の衝撃を次のようにコメントしています。

「Spice Girlsはすべてを変え、私の第二波フェミニズムを決定づけました。当時の私は『信じられない! キラキラのドレスを着て、プッシュアップブラを付けて、ガールギャングを結成するの? それこそ私がなりたいものだわ!』という感じでした」

Emma Stone and HAIM Invite You to Meet the Spice Girls // Omaze

また、2019年の再結成ツアーの際には『バービー』のサウンドトラックにも参加しているHAIMやエマ・ストーンがチャリティを目的としてSpice Girlsの「Stop」(1997年)に合わせて踊るダンス動画を公開。その再結成公演では彼女たちの大ファンであるAdeleが興奮して泣き崩れた、なんてエピソードもあります(Adeleはジェームズ・コーデンの名物企画『Carpool Karaoke』でも「Wannabe」を完璧に歌い上げていました)。

かつてはBeyonceもSpice Girlsを称えて「Spice Girlsは私に勇気を与えてくれた存在。自分のやりたいことを続けていきたい、女性であることは私の誇りだ、そう思えるようにしてくれたのは彼女たちだった」とコメントしていました。

Indigo Girls「Closer to Fine」

サウンドトラック未収録曲にして劇中の挿入歌の中でも特に重要な曲です。Indigo Girlsは1989年にメジャーデビューしたアトランタ出身のフォークデュオ。そんな彼女たちの最初のヒットが「Closer to Fine」ですが、ふたりはレズビアンであることを公表していた経緯もあって当時日本でも話題になっていた記憶があります。

Indigo Girls - Closer to Fine (Official HD Video)

「Closer to Fine」は、身体に異変が起きたバービーがその原因を突き止めるべくバービーランドからリアルワールドへと車で向かうときにカーラジオから流れてきます(その後、バービーやグロリアがバービーランドからリアルワールドに車で行き来するたびに流れることになります)。

この曲はアメリカにおいてスタンダードなテーマとして確立されている「ロードトリップソング」(長距離ドライブ旅行ソング)の定番。同系統の名曲としてはSimon & Garfunkel「America」(1968年)やEagles「Take it Easy」(1972年)が有名ですが、歌詞としてはこの「Closer to Fine」のように長旅を人生の探求と重ね合わせているケースが多いのが特徴です。

Simon & Garfunkel - America (Audio)
Take It Easy (2013 Remaster)

「Closer to Fine」のサビの歌詞の大意はこんな内容です。「医者に診てもらった。山にも登った。子どもたちの世話をして、泉の水を飲んだりもした。問いに対する答えは決してひとつじゃない。道は険しく曲がりくねっているが、人生に意味を求めることをやめたら次第に心が晴れていった」。まさにバービーの旅のお供にぴったりな、自己探求の歌。『バービー』を観たIndigo Girlsのメンバーも「映画が探し求めていたことに見事にフィットしていた」と絶賛していました。

なお、この「Closer to Fine」はサウンドトラックのデラックス版に限ってレズビアンのカントリーシンガー、Brandi Carlileと彼女の同性婚パートナーのCatherine Carlileとのデュエットによるカバーバージョンが収録されています。こちらも併せてぜひ。

Brandi Carlile & Catherine Carlile - Closer To Fine (From Barbie The Album) [Official Audio]

PinkPantheress「Angel」

サウンドトラックからのピックアップ。『Barbie The Album』はいまが旬の女性アーティストを軸にした人選になっていますが、名前にバービーのイメージカラーであるピンクが入ったPinkPanteressはおそらく真っ先に名前が挙がったアーティストだったのではないでしょうか。

PinkPantheress - Angel (From Barbie The Album) [Official Audio]

この「Angel」は、リアルワールドにやってきたバービーがグロリアの娘のサーシャの通うハイスクールで彼女とその友人たちと対面するシーンで流れる曲。自分が女の子たちの憧れの的だと思っていたバービーはサーシャたちの冷徹なバービー観に触れて大きなショックを受けることになるわけですが、そんなZ世代のテーマソングとしてまさにZ世代を代表するPinkPanteressの楽曲を使ったのかもしれません。歌詞は恋人を失った悲しみ、それを受け入れまでの苦しみについて歌っています。

Matchbox Twenty「Push」

サウンドトラック未収録曲。Matchbox Twentyは1996年にデビューしたフロリダ出身のオルタナティブロックバンド。これまでに世界で4000万枚以上の売り上げを誇る人気バンドです。この「Push」はアメリカだけで1200万枚のセールスを記録したデビューアルバム『Yourself or Someone Like You』収録の彼らの代表曲で、こちらも300万枚を超えるヒットになっています。

劇中ではバービーと共に現実世界に行ってマチズモに目覚めたケンが、自分の「お気に入り」としてバービーランドに持ち帰る曲。内容的には恋人に捨てられた男の未練を綴った歌ですが、リリース当時にサビのフレーズ「I wanna push you around」(直訳すると「君を手荒に扱いたい」「君を振り回したい」)を筆頭に歌詞が女性差別的であるとしてフェミニスト団体から抗議を受けた経緯があります。

それを受けて、ボーカルのRob Thomasは「これは自分の感情が恋人に操られていると感じていた男の惨めな姿を俯瞰的な視点で描いた悲しいラブソングなんだ」と説明していました。

Matchbox Twenty - Push (Official Video) [HD Remaster]

このRob Thomasの発言と劇中でケンが置かれていた状況を踏まえると、やはりグレタ・ガーウィグの選曲は冴えまくっていると言っていいでしょう。グレタは「もしバービーがIndigo Girlsの『Closer to Fine』が好きなのであれば、ケンはMatchbox Twentyに夢中になるかもしれないと思った」とコメントしていました。

なお、グレタ・ガーウィグはMatchboxy Twentyの「Push」をリアルタイムで13歳のころに聴いていたとのこと。当時この曲が大好きで歌詞の意味もよくわからずにラジオから流れてくると一緒になって歌っていたらしく、そのあと大人になってからRob Thomasが言っていたような曲の構造に気がついたそうです。

気になるのは今回の劇中での「Push」の扱いについてのMatchbox Twenty側の反応ですが、Rob Thomasは次のようにコメントしています。

「最初は使用許可を出すのにためらった。僕たちが成功したころ、映画『チアーズ!』(2000年)で彼女を敵視するいけすかない男の部屋にMatchbox Twentyのポスターが映るシーンがあった。そうやって、僕たちはさんざんターゲットにされてきた。今回もジョークのネタになるのはわかっていたが、でもそれでよかったんだ」。

実はRobはグレタ・ガーウィグの大ファンだそうで、彼がリスクを承知しながらも最終的にゴーサインを出したのはそんな背景も関係しているのかもしれません。

Ryan Gosling - Push (From Barbie The Album) [Official Audio]

なお、Matchbox Twentyの「Push」はサウンドトラックのデラックス版に限ってライアン・ゴズリング歌唱版が収録されています。このバージョンを聴くと使用を許可したRob Thomasの寛大な対応が余計に際立ちますね。

Ryan Gosling「I’m Just Ken」

こちらもライアン・ゴズリングがボーカルを務める曲。バービーのアクセサリーとして生み出されたケンが自分の存在意義に疑問を持ち始め、誰かに認めてほしいと切実な思いを歌い上げています。アメリカではこの曲の動画が予告編を超えるほどの再生回数を記録。その結果全米シングルチャートでは87位にランクイン、全英シングルチャートでは13位に食い込む予想外のヒットになりました。

Ryan Gosling - I'm Just Ken (From Barbie The Album) [Official Audio]

現実世界でマチズモに覚醒したケンが心の叫びを80年代アリーナロック風のパワーバラードで歌い上げる、というその構造からして批評的とも言える曲ですが、これもまたキャスティングが絶妙。ギターを弾いているのがGuns ‘N’ RosesのSlashとEdward Van Halenの息子Wolfgang Van Halen、ドラムがFoo Fightersの新メンバーになったJosh Freeseという「ガチ」な布陣が敷かれています。

Ryan Gosling - I'm Just Ken Exclusive (From Barbie The Album) [Official]

Mark Ronsonはおもちゃ屋さんでバービーはたくさんいるのにケンはどこにも見つからなかった経験をもとにして曲を書き上げたそう。最初は特に劇中で使われることを想定せずに何気なくグレタ・ガーウィグに送ったところ、彼女がいたく気に入ってライアンに聞かせたら彼も感銘を受けて採用することになったとのこと。映画公開後にはライアンによる「I’m Just Ken」歌唱シーンのメイキング映像がYouTubeで配信されましたが、終始爆笑しているグレタの姿が印象的でした。

Billie Eilish「What Was I Made For?」

『バービー』の挿入歌で最重要曲を挙げるならば、やはりBillie Eilishの「What Was I Made For?」になると思います。この曲に関しては、グレタ・ガーウィグが「ピンクの心臓の鼓動になった曲」と評しているほど。商業的にもDua Lipaの「Dance the Night」と共に『Barbie The Album』からのシングルとしては最大級のヒットを記録。アメリカのチャートでは最高14位、イギリスでは堂々の1位を獲得しています。

この曲は先行で公開されたときからサウンドトラックの他の収録曲とは明らかに毛色が違っていたこと、そしてBillie自身も「この映画はあなたの人生を変えることになると思うから私の曲もそうなったらうれしい。泣く準備をしておいて」と自信をのぞかせていたことから覚悟はしていたのですが、ドラマの中で聴くと想像以上にエモーショナルに響いてきました。

グレタ言うところの「ピンクの心臓の鼓動になる歌」を誰が担うかはとても重要だったと思うのですが、いまの音楽シーンを見回してみるとBillie以外ほかに考えられないのでは、という気がします。

Billie Eilish - What Was I Made For? (Lyric Video/Japanese)

曲のタイトルは「私はなんのために作られたの?」「なんのために生まれてきたの?」という意味。歌詞も題名通り自分の存在意義を問うような内容になっています。

当初Billieはバービーのことだけを考えて曲を書いたそうですが、完成したあとに一日中聴いていたら「これは自分が自分について常々感じていることそのものだ」と思ったそう。無意識のうちに自分を客観的に捉えて書いていたことに曲ができあがってから気づいた、とコメントしています。

それを踏まえてBillie自ら監督したミュージックビデオを見ると、きっと激しく心を揺さぶられるでしょう。このMVではクラシカルなスタイリングのBillieが広々とした空間にポツンと置かれた机に腰掛けて、そこで黒い箱の中から人形に着せるようなミニチュアの服を次々と取り出していきます。

その服をよく見ると、いままでBillieがミュージックビデオなどで着ていた彼女のアイコニックなコスチュームであることに気づきます。そして、その服を並べていると突然部屋が大きく揺れ始めたり、突風に吹かれたり、雨が降り出したりする。

Billie Eilish - What Was I Made For? (Official Music Video)

この演出にはおのずとBillieのこれまでの人生がオーバーラップしてくるわけですが、『バービー』が最終的にパーソナルな方向に向かっていくことを踏まえると、Billieの書いた曲がバービーと自分を重ね合わせて自らのアイデンティティを問うような歌になったのはごく自然な着地なのかもしれなのかもしれません。

それにしても、Billieと彼女の兄Finneas O’Connellは映画のサウンドトラックで本当に良い仕事をしています。『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)の「No Time to Die」はよく知られていますが、そもそもBillieが関与していること自体がちゃんと認知されているかも怪しい『私ときどきレッサーパンダ』(2022年)も未見の方はこの機会にぜひ。

Billie Eilish - No Time To Die (Official Music Video)
4*TOWN (From Disney and Pixar’s Turning Red) - Nobody Like U (From "Turning Red")

Nicki Minaj & Ice Spice「Barbie World (with Aqua)」

最後に紹介するのは、エンドロールで流れるNicki MInajとIce Spiceのコラボレーション。こちらはアメリカのチャートで最高7位、イギリスでは最高4位にランクインするヒットになっています(イギリスではサウンドトラックから合計3曲ものトップ5ヒットが生まれていることになります)。

Nicki Minaj & Ice Spice – Barbie World (with Aqua) [Official Music Video]

この曲では北欧のユーロポップグループ、Aquaが1997年に放った大ヒット曲「Berbie Girl」をサンプリングしています。「Berbie Girl」は当時アメリカで最高7位、イギリスでは1位を記録しました。

Aqua - Barbie Girl (Official Music Video)

Aquaの「Berbie Girl」はバービーを性的かつ昔ながらのステレオタイプな金髪女性に描いてイメージを毀損したとして、当時バービー人形の製造元のマテル社から訴えられています。結果としてマテル社の訴えは棄却されましたが、2009年にはマテル社がこれを逆手にとってバービーの新しいプロモーション戦略として「Berbie Girl」を採用。歌詞の一部を変更してミュージックビデオを製作していたりします。

そういう背景を持った曲をサンプリングしているのも心憎いのですが、ここでNicki Minajをキャスティングするのもなかなか気が利いています。というのも、Nickiはキャリアの初期から自分のオルターエゴとして「バービー」(ハラジュクバービー)を名乗っているからです。

Nickiは子供のころ家庭に問題を抱えていて、そういうなかで現実逃避としてバービーに基づいた別人格を生み出して遊んでいたそう。彼女は2010年にリリースしたデビューアルバム『Pink Friday』のジャケットでもバービー人形に扮しているほどで、自身のファンダムもバービーにならって名付けられた「Barbz」だったりします。

「Barbie World」はAquaの「Barbie Girl」をサンプリングしつつ、ビートは現在大流行中のダンスサウンド「ジャージークラブ」を使用。Ice Spiceにとってジャジークラブのヒット曲はPinkPantheressとコラボした「Boy’s a Liar Pt. 2」に続いて2曲目ですが、こういう2023年のトレンドに思いきり乗っかった曲をあえてエンドロールに配置していることが10年後20年後にこの映画を語るときに活きてくるような気もします。

おまけ:ケンのマンスプレイニング(音楽編)

音楽小ネタも多い『バービー』の劇中では教えたがりなケンたちによる「マンスプレイニングあるある」が繰り広げられるサブカル勢悶絶のくだりがありますが、容赦のない映画ネタ、パソコンネタ、金融ネタに加えて当然音楽ネタも存在します。これがまたPavementのStephen Malkmusにまつわる講釈だったりするのですが、こういうときにあまり標的にされることがなかった絶妙なラインを突いてくるあたりに製作者(ノア・バームバック?)のセンスを感じました。

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